ためになる診療

 あけましておめでとうございます。
今年もより良い年でありますようお祈りいたします。
 年の初めである今月は私がいつも考えている患者さんの「ためになる診療」についてお話します。

 松下電器産業、現在のパナソニックを一代で築きあげた松下幸之助氏は沢山の格言を残しています。私が好きな松下語録の一つは「客の好むものを売るな、客のためになるものを売れ。」です。医療に言い換えれば「患者さんの好む診療をするな、患者さんのためになる診療を行え。」となるでしょう。
 数年前、不妊症のスクリーニング検査を行った20代の患者さんに、肥満を認めたためまず体重を減少させる必要があることを説明した時のことです。その患者さんは、「自分は不妊症で悩んで来たのに不妊症の治療をしないなんて不誠実だ。」と立腹し帰って行きました。そして後日ご主人を伴い納得いかないと再度受診されました。そこで肥満では次のようなことがあることを改めて説明しました。第一に排卵が不順になりやすいため妊娠が成立しにくいこと。第二に治療により妊娠が成立しても流産しやすく、また妊娠がたとえ継続したとしても妊娠高血圧などが起こる確率が高く母体も胎児も危険になること。第三に救命するために緊急帝王切開を行っても麻酔も手術も危険なことをお話しました。そしてまだ20代なのでここ一年で体重を減らしその後本格的な不妊治療を開始した方が今後のためにも良いと説明しました。ご本人は不満そうでしたがご主人は私の説明を理解し目標体重まで減らしたら再度受診させますとおっしゃってお帰りになりました。そして約束どおり約1年後に減量して受診し不妊症治療を行い現在は二人のお子様のお母さんとなりました。今でも時々受診なさりかわいいお子様方の写真をみせてくださいます。
 患者さんの「好む診療」をする方が、患者さんも喜び、医師も患者さんに納得いただくための時間のかかる説明をする苦労も無く楽で簡単です。その上、「ためにならない診療」でも患者さんが好んで通院してくれる訳ですから医療経営的にも良いのでしょう。でもそれでは全く患者さんのためになりません。私は医師は医療に誠を尽くすべきと考えます。松下氏の言葉に学び、これからも当院は患者さんが「好む診療」ではなく患者さんの「ためになる診療」を心がけていきたいと思います。

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# by chikakinu | 2018-01-01 05:00  

体内時計について

 2017年のノーベル医学生理学賞は体内時計を研究した米国の3氏が受賞しました。今月は体内時計についてお話します。

 人間の体は地球の自転に合わせて24時間のリズムで動くように設定されています。地球に生命が誕生した約35億年前から今日まで、気の遠くなるような年月をかけて私たち人間は約24時間で変動する概日(がいじつ)リズム(生物時計や体内時計と同じ意味)という生理現象を獲得してきました。私たちが朝になると目が覚めて、昼間活動し、夜眠る・・とうリズムは遺伝子によって決められていることなのです。この概日リズムをコントロールしているのが時計遺伝子です。この同調(リズムの補正)は朝に行われます。同調するスイッチは「光」と「摂食による消化管の動き」の2つです。体がリズムよく働くようにするには朝の光を浴びることと朝ごはんを食べて腸を動かすことです。この時計遺伝子に逆らった生活は、がんの発症率を高くし、やる気のでるホルモンや眠くなるホルモンの分泌不全がおこり、がん、うつ病、不眠などの病気を自分で作ってしまうことになります。毎日朝ごはんを摂らずに出勤ギリギリまで寝ているという生活は体の不調を招きます。私は不定愁訴(診察の結果、原因となる病気が無いのに、なんとなくだるい、やる気がでない、疲れるなどの症状)のある患者さんに「それらの症状を治す魔法の薬はありません。どんなに疲れていても、どんなに夜遅くまで起きても毎朝早めに決まった時間に起きて朝食をしっかり摂るようにすると体調が良くなりますよ。」とお話しています。薬が処方されないと不満に思う患者さんもいるようですが「病気では無い」と診断するのも私たち医師の仕事です。決まった時間に起きる、朝ごはんを食べるということは最初のうちは難しいかもしれませんが続けると夜になると自然に眠くなり、朝も自然に目が覚めるようになり体調が安定します。時計遺伝子が決定している概日リズムに合わせた生活が健康を作るのです。

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# by chikakinu | 2017-12-01 05:00  

妊娠とインフルエンザ予防

 寒さが増してきました。インフルエンザの予防接種の時期です。今月は妊娠とインフルエンザ予防についてお話します。

 インフルエンザは冬に流行する感染症です。主な症状は38度以上の高熱、関節痛、頭痛、筋肉痛などです。妊婦はインフルエンザ感染が重症化し易く、妊婦の高熱は時に児の心血管系の先天奇形の原因となるという研究報告もあるので、妊婦はインフルエンザに罹患しないようにすることが大切です。インフルエンザに罹患しないために最も効果的なことはインフルエンザワクチンを接種することです。現在使用されているインフルエンザワクチンは不活化ワクチンであるため全妊娠周期を通じて妊婦、胎児双方に理論的に問題は無いと言われています。インフルエンザワクチンには防腐剤としてエチル水銀を含む製剤とエチル水銀を含有していないものがあります。エチル水銀の濃度は極少量であり胎児への影響は無いとされていますが、緊急時(インフルエンザが猛威を振るっていて一刻も早い接種が必要など)以外はエチル水銀の含まれていないインフルエンザワクチンを接種したほうが望ましいと考えます。当院ではエチル水銀の入っていない製剤を使用しています。インフルエンザワクチンの接種後効果がでるまでには2〜3週間かかります。11月中に妊婦さんと妊婦さんの夫、お子さん、お里帰り先のご家族皆さんでインフルエンザワクチンの接種を受けてください。

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# by chikakinu | 2017-11-01 06:00  

妊娠中に注意が必要な食べ物について

 実りの秋。食べ物の美味しい季節になりましたが妊娠中は気をつけないといけない食べ物がいくつかあります。今月は妊娠中に注意が必要な食べ物についてお話しします。

 「妊娠中に食事で気をつけることはありますか?」という質問を受けることがあります。妊婦さんが気をつけなければいけないのは食物を介した感染症です。 まずひとつはトキソプラズマ症です。妊婦さんが感染すると赤ちゃんにも感染し赤ちゃんの脳や眼に影響がでる可能性があります。トキソプラズマ症はトキソプラズマという原虫に感染したネコの糞などが原因であることは良く知られていますが食物からも感染します。生肉や良く火が通っていない肉は生きたトキソプラズマが付着している可能性があります。レアステーキ、生ハム、ローストビーフ、加熱の不十分なジビエ料理、加熱が不十分な肉のパテ、生サラミ、ユッケ、馬刺し、鳥刺しなどの食品に注意が必要です。(厚生労働省HP参照) それからもう一つ妊婦さんが注意すべき感染症はリステリア菌による食中毒です。リステリア菌も妊婦さんが感染すると赤ちゃんへも感染する可能性があります。リステリア菌は塩分にも強く冷蔵庫でも増殖します。加熱殺菌していないチーズ、肉や魚のパテ、生ハム、スモークサーモン、生サラダなどから感染する可能性があります。(厚生労働省HP参照)
 現代は様々な食品が手に入りやすい時代ですが、妊娠中は注意して食事を選ぶ必要があります。また普段調理をするときも生野菜と肉のまな板はそれぞれ別なものを用意して使い分けるようにし、生肉などに触れたトング、取り箸の取り扱いにも注意が必要です。

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# by chikakinu | 2017-10-01 06:00  

安定期について

 妊婦健診時に「もう安定期ですか?旅行に行ってよいですか?」という質問をよくいただきます。今月は安定期についてお話しします。  安定期についてお話しします。と書きましたが、実は妊娠中には安定期などはありません。一般的に妊娠16週頃が安定期と言われているようですが医学的には分娩が無事終了するまで安定期は存在しないのです。なぜなら妊娠中はどの時期にも腹痛、出血、感染などが突然おきるからです。特に晩婚化が進んでいる現代は妊婦さんの年齢も高齢化していますので妊娠高血圧なども発症しやすくなり、より母体と赤ちゃんの危険度が高くなります。妊娠中はどの時期も大事に過ごさなければなりません。妊娠に安定期はありません。妊娠中の旅行、遠出は避けましょう。一時帰省、出張もおすすめはできません。分娩まで丁寧な毎日を過ごしましょう。
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# by chikakinu | 2017-09-01 06:00